治療事例紹介

リバース型肩人工関節置換術(反転型人工関節置換術)

  • 下記の症状がある場合には、肩の骨が変形している“腱板断裂症性肩関節症”という病気が考えられます。

     

    • 肩の動きが悪くなっている、ごりごり音がする。
    • 肩を動かさなければそれ程痛くないが、動かすと、強く痛む。
    • 動きとしては自分の肩の高さよりは腕が挙げられない(強い変形が考えられます)。
    • 横に肩が挙がらない。
  • (左)正常な肩関節
    (右)腱板断裂症性変形性肩関節症の状態

 

正常と腱板断裂症性変形性肩関節症の違いは、イラストには記載されていませんが、上腕骨頭を覆う腱板(インナーマッスルの腱)が大きく断裂をして、骨頭と肩峰が接します。
どうしても肩のあがらない腱板断裂症性変形性肩関節症ではリバース型人工関節置換術(反転型人工関節置換術)が有効です。

このページでは、腱板断裂症性変形性肩関節症に関する治療方針・リバース型人工関節置換術の方法・術後のこと・合併症に関する注意事項をご紹介します。

治療方針

痛みが強く、肩をあまり動かさない方の場合

炎症を抑える薬を関節内に注射する方法安静により肩の痛みは軽快することが多々あるのでまず保存療法が第1選択です。

痛みが落ち着いてきた場合

肩の痛みが落ち着いてきた場合には、運動療法をおすすめします。
腱板断裂症性変形性肩関節症の状態でも腕があがることが多々あるからです。なぜ腱板が断裂していても腕があがるのかはまだ明確には分かっていません。

腱板断裂症性変形性肩関節症では、肩甲骨の関節窩が傷んでいることが多々あります。
骨の変形の程度は個人差があるため、運動療法が効果的である方とそうでない方がおられます。

保存療法(手術をしない治療)で効果が少ない場合

いくつかの手術療法が推奨されています。

鏡視下滑膜切除術

内視鏡で関節をみながら、腱板や滑膜の変性(正常な組織でない)を掃除します。痛みは軽減するのですが動きが著明に改善するかは個人差があります。

人工骨頭置換術

もともと痛みはあっても肩があがる方の場合、人工骨頭置換術でも可動域の改善が見込まれます。
しかし、肩の痛みがあり腕があがらない方の場合、人工骨頭置換術で症状の改善の見込みは低いと思われます。
そのため、医師は症状や患者さまの機能回復の目標に基づいて適応すべきか決定します。

※人工骨頭置換術では関節窩は処置をしません。

どうしても肩があがらない方への新しい治療方法

2014年4月から国内での使用が認可された、リバース型人工関節置換術が効果的という報告があります。このリバース型人工関節はヨーロッパでは1990年代から、アメリカでは2004年から使用が開始された方法です。

リバース型人工関節置換術(反転型人工関節置換術)

  • リバース型人工関節置換術(反転型人工関節置換術)はイラストのような器具を、肩の肩甲骨と上腕骨に挿入します。

    変形した上腕骨にプラスチックの受け皿(ライナー)とステムを、肩甲骨の関節窩に金属のボール(グレノスフェア)とベースプレートを設置します。ベースプレートは金属のスクリューで固定します。

この人工関節が上腕骨と肩甲骨にはいった状態を下記のイラストで紹介します。

  • リバース型人工関節が上腕骨と肩甲骨にはいった状態。ステムとライナーは連結しています。

  • (左)挿入前の関節窩
    (右)ベースプレートが肩甲骨関節窩に挿入された状態。

リバース型人工関節(反転型人工関節)と呼ばれる理由

  • 全人工関節置換術の術後イメージ

  • 反転型(リバース型)人工関節置換術の術後イメージ

全人工関節置換術では傷んだ上腕骨頭をヘッドで置き換え、傷んだ関節窩にグレノイドコンポーネントを設置します。
腱板(インナーマッスルの腱)が損傷していない場合に全人工関節置換術おこなう手術ですので、肩の構造は、元の肩の解剖に似ています。 

しかし、リバース型(反転型)人工関節では、丸いヘッドにあたるグレノスフェアが関節窩に、そしてグレノスフェアの受け皿が上腕骨側についています。全人工関節置換術とは、このヘッドと受け皿が反対の構造になっています。したがって、反転型(リバース型)人工関節と呼びます。

レントゲンで見た場合

  • 正常な状態
    上腕骨頭に丸みがあり、関節窩と上腕骨頭にすきまがあります。

  • 手術前のレントゲン
    正常と比較して、上腕骨頭の肩峰のすき間がありません。

  • 手術後のレントゲン
    上腕骨の変形した骨頭を切除し、肩甲骨にもプラスチックの受け皿が入っています。

人工関節置換術後のリハビリ

施設間で異なりますが、おおむね数週間は装具をつけ、徐々にリハビリを開始します。
アメリカで臨床現場を見てきた経験上、早い人では3ヶ月で腕が頭の高さまで挙がります。しかし、いつ頃、どれくらい可動域がよくなるかは人によって異なります。
リハビリの進捗に関しては、主治医と相談することをおすすめします。

リハビリ後の肩のあがり方

  • イラストは平均的な肩の挙がり方を示しています。健常側と全く同じになるのは難しいことをご了承ください。

術後の予後

経過がよければ、リハビリ後の肩の挙がり方のイラストのような挙がり方が持続します。
しかし、受け皿のプラスチックが数年で緩む、つまり肩甲骨からプラスチックがずれる・外れるために、痛みが再発することがあります。そのため、人工関節置換術の予後はあまりよくないと言われていました。

近年は医学の発展により、人工関節がよく施行されている国外施設(アメリカやフランスなど)では緩みの頻度は低くなってきていると報告されています。
日本では肩人工関節置換術後10年以上の治療成績の報告はなされていないため、どれくらい人工関節が長持ちするかは主治医と話をすることをおすすめします。

術後にどれくらいの重量物を持ち上げてよいか、活動性の高いスポーツはできるのか?

まだ統一した意見はありません。当院では極力両手で10kg以上のものを持ち上げないでくださいと患者さまにお話ししております。
人工関節置換術後の患者さまでゴルフをしている方もおられます。しかし、ゴルフなどのスポーツがどこまでできるかは患者さまの筋力なども関係してきますので、個人差があります。
スポーツなどの活動性やどの程度の重量物を持ち上げてよいかは手術前に外来でご相談することをおすすめします。

術後の回復の目安

  1. 肩が挙がるようになる。
    早い人では3ヶ月であがる場合もあります。小柄な女性は三角筋の筋力が弱いためかすぐに挙がらない例もあります。
  2. 外旋は一般的にあまり開かない。
    しかし、個人差はあるものの、術前から腕が開く方は術後も比較的開く場合も多い。
  3. 内旋(背中に手をまわす)は術後獲得が難しい。
    結滞動作やブラジャーのホックをかける・トイレでお尻を拭くなどの行為はしにくい。獲得角度には個人差がある。
  4. 再置換術例(何らかの手術をすでにうけている方)は初回リバース型肩人工関節置換術術後の経過に比べて、可動域獲得は劣る可能性が高い。

術後特有の合併症

感染、化膿

人工関節は人体にとっては異物です。術早期からおこることもありますし、経過良好でも身体の免疫力が低下して、細菌が人工関節周囲に侵入して、化膿がおこることがあります。
肩が腫れる、熱が続く、突如として強い痛みが出る場合などは、感染がおこっている可能性があります。手術中に医師は感染予防のために抗生剤の点滴をしたり、術中に洗浄したりして、細菌がいつかないように努めます。しかし、感染はおこりうる合併症です。

神経障害

リバース型人工関節置換術では器械を的確に設置するために、筋肉をよけ、関節の靭帯を切除します。そうした操作の際に腕の牽引などで一過性の神経障害(手のしびれ、数日は肘が曲げにくい)がおこる可能性があります。

スカプラノッチ

リバース型(反転型)人工関節のインプラントの形状では、腕を反対側の肩に触る行為は正常と比べて制限されます。
ライナーと肩甲骨の骨が反対側の肩に触る行為(肩の内転、内旋)の際に接触し、それが繰り返されるために肩甲骨が削れることをスカプラノッチといいます。

肩の内転、内旋で音がするなどの症状があらわれます。強い痛みがあまり出ません。
しかし、ライナーはすり減り、レントゲンでは肩甲骨の骨が削れているのがみられます。

スカプラノッチ(骨の削れ)を治す確立された方法は現時点ではありません。そのため、スカプラノッチがおこらないようにグレノスフェアの設置に細心の注意を払う必要があります。
グレノスフェアの大きさを変えたりして対応する場合もあります。

スカプラノッチの頻度は施設間で異なります。手術を受ける前に主治医の先生とスカプラノッチの対応についてよく相談されることをおすすめします。

  • 術直後の状態

  • スカプラノッチ(骨の削れ)がおこった状態

肩峰骨折

術後に肩峰に骨折がおこることがあります。症状として、上肢の長さが幾分長くなります。
上腕骨は三角筋でささえていますが、上肢が長くなりすぎると三角筋が引っ張られ、三角筋の付着している肩峰が骨折すると考えられます。

  • 術直後の状態

  • スカプラノッチ(骨の削れ)がおこった状態

 

このように、どうしても肩のあがらない腱板断裂症性変形性肩関節症ではリバース型(反転型)人工関節が有効ですが、おこりうる合併症がいくつか伴うので、手術を決断される場合には主治医とよく相談することをおすすめします。

 

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